【航空機知識】背面飛行
戦闘機や、競技用の飛行機は逆さまになって飛ぶことができる。「背面飛行」(はいめんひこう)と呼ぶ。 背面飛行で飛ぶとき、燃料はどうやって供給されるのかって話をしようと思う。 |
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“万有引力”のおかげで、燃料も常に下に落ちる。だから燃料タンク内の吸い込み口は当然タンクの底面にある。 もし背面飛行で機体が上下逆さまになった場合、燃料の吸い込み口は当然天井に移動してしまうことになり、燃料を吸ってエンジンへ送ることができない。 燃料の吸い込み口を自由に回転できるようにして吸い込み口の先端にオモリでも付けておけば燃料とともに常に吸い込み口が下になるかもしれないが、もし回転が引っかかったり、微妙な姿勢のときには必ずしも燃料の中に吸い込み口を入れておくことができないかもしれない。 実際にはどうなっているのかというと、「背面飛行セル」と呼ぶ小さな部屋が燃料タンク内に存在し、これが背面状態になってもエンジンへの燃料供給を継続する。 トップ・ガンに登場する“ミグ28戦闘機”(28番の機種は実在しない)は、「背面飛行用のタンクに問題があり・・・」という場面が出てくるが、背面飛行用の燃料タンクというのがあるわけではなく、燃料タンク(メインタンク)内に「背面飛行セル」があるのだ。 「トップガン」に登場するMIG-28(実在しない)。映画ではMIG(恐らくMIG21)に機動性が近いとされ実際に米空軍でも仮想敵機として長年活躍したF-5E“タイガー”が代役を務めた(F-5は巡航ミサイル用に開発されたJ85という小型ジェットエンジンを使って開発された小型戦闘機)。 この背面飛行セルを説明する前にまず、フラッパ・バルブの説明が必要だ。 板に穴が開いていると(図1)、そこから液体は板を超えて向こう側へ移動できるわけだが、ここに開閉可能なフタ(フラップ)を取り付けバネの力で塞いでおくとする(図2)。 (図1) (図2) 燃料タンク内を隔壁で区切って2つの部屋に分け、隔壁に穴を開けてこのフラッパ・バルブを取り付けると、燃料は片方の部屋からもう一方の部屋には移動できるが、その逆はできないことになる(=一方通行)。 燃料タンク(メインタンク)内に小さな箱を設置してその箱に内側からフラッパ・バルブを取り付けると、燃料は小さな箱の中に入ることはできるが出ることはできなくなる。 (図3) 通常、航空機は複数の燃料タンクを機内に有するが、どれか一つがメイン・タンク(「フィード・タンク」とも呼ぶ)とされており、複数の燃料タンクの燃料は一度メイン・タンクへ移送される。 メイン・タンク内にはブースタ・ポンプ【Booster Pump】があり、このポンプからエンジンへ燃料が送り込まれる。 エンジンにはMFC(メイン・フーエル・コントロール【Main Fuel Control】→職場では「メンコン」と略して呼んでいた)があり、ここで予め設定された燃料の種類に応じた比重によって流量を制御されエンジン内の燃料ノズルから燃料を噴射させることになる。 (図4) “Gのかかっていない背面飛行”で飛行した場合、燃料は天井に寄ってしまうため、ブースタ・ポンプは燃料を吸えなくなってしまい(→図4)エンジンは停止してしまう。 ちなみに、ループ中の一時的な背面状態など“+Gがかかっている状態では機体は上下が逆の状態でも燃料は遠心力で通常通りブースタ・ポンプを浸しているので供給を継続できる。 (図5) メイン・タンク内に背面飛行セルを設けることで、一定時間の背面飛行が可能となる。 通常飛行においては、ブースタ・ポンプが燃料を吸い込むと、背面飛行セル内が負圧となるためにメイン・タンク内の燃料がフラッパ・バルブを押し開けて背面飛行セル内部へ進入し、問題なくエンジンへの燃料供給ができる(→図5)。 (図6) 機体が(-Gの)背面状態になるとメイン・タンク内の燃料はやはり天井へ張り付くが、背面飛行セル内の燃料はフラッパ・バルブを開くことができずに背面飛行セル内にとどまり、ブースタ・ポンプは、燃料を取り込むことができる(→図6)。 ただし、図からわかるように、背面飛行を継続できる時間は限られており、近代の戦闘機でも10秒から長くても2、30秒程度だったりする。 ジェットエンジンは他のエンジンと違って驚くほど燃料消費量が多いため、この仕組みでは長時間の背面飛行はできない。 実際のブースタ・ポンプ。 内蔵する電気モータで駆動するのが多いが、油圧駆動のポンプもある。 フランジ部分(大きな円形や楕円形の平べったい部分)が下になり、燃料タンクの底部に取付けられる。 F-4戦闘機くらいの時代から、モーター部分(上記写真の灰色の筒)の上側にも燃料の吸い込み口を設けて背面飛行時は上から吸える構造になっていたりする。 ちなみにこのブースタ・ポンプは、燃料タンクの中で丸ごと燃料に浸かった状態となり、モーターの発熱は燃料に触れていることで冷却される。写真の金網の部分が燃料の吸込口で、この中に回転羽根があり燃料を加圧送油する。 金網は燃料タンク内の部品が万が一脱落してもポンプが吸い込んでしまうのを防ぐためにある。 このブースタ・ポンプは、実は無くてもエンジンは回る。 先に出てきたジェットエンジンの構成品の一つである「MFC」(メイン・フーエル・コントロール)は、色々な機能を追加した“ポンプ”なのだ。 だから配管の先が燃料に浸かってさえいれば、自分で燃料を引き込むことができる。 ブースタ・ポンプが果たしている役割は、「キャビテーション」という、気泡の発生を防止することが大きい。 高度の高いところを飛行すると、気圧が低いことで燃料配管内で燃料に気泡が混入する恐れが大きくなる。 それを圧力をかけることで予防するのである。 T-4(空自のジェット練習機)のエンジン試運転を後輩に教えるときには、T-4の操縦席にブースタ・ポンプのスイッチがあることを利用して前席の後輩(自分は後席)にそのスイッチを切らせてブースタ・ポンプが作動していなくてもエンジンは何ら問題なく回ることを体験させるようにしていた。 体験することは、学ぶうえでとても重要なんだ。 「ジャンボ機でも背面飛行ができるのか?」といった質問をネット上で見かけることがあるが、基本的に航空機は上向きだろうが下向きだろうが宙に浮いていることには変わりはなく、不可能ということはない。 ただ、このように燃料供給などの構造上の問題があるだけ。 ジャンボジェットだろうがA380だろうが万が一の場合には背面も垂直降下もあり得ないことはなく、設計するうえでは(一時的なものとして)想定するのは当然。 もちろん主翼についても通常飛行を想定した設計なので、効率はとても悪くなる。 揚力の発生について書いた記事「飛行の原理」を読んでもらえばわかるだろう。 主翼は、機体を持ち上げる力(揚力)を上向きに発生するための形状をしているが、背面になるとこの形状が逆になるのでとても効率が悪くなる(→かなりアタマを上げた姿勢にならないと高度を維持することができない)。 ヘリコプターだって背面飛行できる機体はあるし、ループ(宙返り)なら多くの機種が可能だろう。 ループは、頂点ではハタから見たら逆さまだが乗っている本人は-Gではなく+Gだ。 つまり目を閉じていれば自分が逆さまになっていることなどわからない。 そしてそれは機内の燃料にとっても同じ。 背面で飛べるかどうかではなく、その機体がマイナス○Gまで耐えられるのか、プラス○Gまで耐えられるかってことだ。 記事「背面飛行」おわり。 使用している画像のうち、「AC-SPEC JAPAN」の文字が表示されているものは、当方のオリジナルですので、用途があればご自由にお使い下さい。ただし極力「AC-SPEC JAPAN」の文字を消さずに使って頂けることを希望します。その他の画像はネット上で拾ったものです(所有者の方へは使用のお願いをしていますが、海外サイトなどはそのまま拝借していたりします)ので、転用はオススメいたしません。 |
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コメント
ゆうたさんへ
コメントありがとうございます。ゆうたさんはおそらく同世代ですね。自分もこの映画にやられて人生をひっくり返されました。小さい頃から機械や乗り物は好きでしたが唯一飛行機には全く興味はありませんでした。航空学生の2次試験の面接で「希望する機種はありますか?」と聞かれ「F-15です」と答えました。「もしF-15に行けなかったらどうしますか?」と返ってきたので「(ジエタイを)辞めます!」と言ったら落とされました(爆)。「与えられた任務で頑張りたい」くらい言っときゃいいのに・・・(笑)。実際のところ失格理由は伝えられないのでこれが落ちた原因とは限らないのですがね。
介護事業はまだ順調ではないです。いろいろとこれからもバタバタするので、またしばらくは不定期更新になってしまうかもしれませんが、辞める気は毛頭ないので気長にお待ち頂きたいと思います(悪い意味での“完璧主義”で、1話書き上げるのに丸1日つぶしてしまうヤツなんです)。
洋画の吹き替えってのは一気にださくなりますね~。TOPGUNでトムクルーズがアタマに来てGPZで無茶運転した直後のケリーマクギリスとの口論で「Is that right?」「That is right!」も吹き替え版だと「へェ~そーかい!」「ええそうよ!」になっちゃいますからね。このワンシーンで吹き替え版になるとどれだけしらけるのかってのを感じた記憶があります。
あと今の自分が一番好きなところは(ってもう何年も観てないですが)" It's a jo~b! "のセリフです。「自分で決めるんだ! ・・・飛んだら命をかける。 ・・・それがパイロットだ!」の場面です。
介護事業はまだ順調ではないです。いろいろとこれからもバタバタするので、またしばらくは不定期更新になってしまうかもしれませんが、辞める気は毛頭ないので気長にお待ち頂きたいと思います(悪い意味での“完璧主義”で、1話書き上げるのに丸1日つぶしてしまうヤツなんです)。
洋画の吹き替えってのは一気にださくなりますね~。TOPGUNでトムクルーズがアタマに来てGPZで無茶運転した直後のケリーマクギリスとの口論で「Is that right?」「That is right!」も吹き替え版だと「へェ~そーかい!」「ええそうよ!」になっちゃいますからね。このワンシーンで吹き替え版になるとどれだけしらけるのかってのを感じた記憶があります。
あと今の自分が一番好きなところは(ってもう何年も観てないですが)" It's a jo~b! "のセリフです。「自分で決めるんだ! ・・・飛んだら命をかける。 ・・・それがパイロットだ!」の場面です。
相乗ってみた
初めまして。
ジェットエンジンの仕組みとか色んなHPで見ててこのサイト見つけました。
なんか面白くって、読み漁ってる途中ですがこの書き込みのTOPGUNの文字で撃ち落とされました。
あの映画は、仕事で上手くいかなかったとき寝れるまで繰り返し見てます。酷く落ち込んだ時は1日に5回くらい見た覚えがあります。
僕は最後の方でアイスマンを助けに戻るシーンが好きです。
あれを見て、自分もチームを大事にしなくてはと思って、また雑な扱いをして自己嫌悪でまた観る・・・。
また、ゆっくりと読ませてもらいます。
30年ぶりに寝るのを忘れて熱い気持ちで読めるHP会った気がします。
ジェットエンジンの仕組みとか色んなHPで見ててこのサイト見つけました。
なんか面白くって、読み漁ってる途中ですがこの書き込みのTOPGUNの文字で撃ち落とされました。
あの映画は、仕事で上手くいかなかったとき寝れるまで繰り返し見てます。酷く落ち込んだ時は1日に5回くらい見た覚えがあります。
僕は最後の方でアイスマンを助けに戻るシーンが好きです。
あれを見て、自分もチームを大事にしなくてはと思って、また雑な扱いをして自己嫌悪でまた観る・・・。
また、ゆっくりと読ませてもらいます。
30年ぶりに寝るのを忘れて熱い気持ちで読めるHP会った気がします。
Re: 相乗ってみた
まべちん様
コメントありがとうございます。
楽しんでいただけたとのこと、嬉しく思います。
記事を書いている目的がまさにこれのためですので、張り合いになります。
なかなか新しい記事が書けず申し訳ありませんが、今の仕事が少し落ち着いてきたらもっと頻度を上げて書けると思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
コメントありがとうございます。
楽しんでいただけたとのこと、嬉しく思います。
記事を書いている目的がまさにこれのためですので、張り合いになります。
なかなか新しい記事が書けず申し訳ありませんが、今の仕事が少し落ち着いてきたらもっと頻度を上げて書けると思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
コメントの投稿
トップガンに至っては金曜ロードショー(かな?)で放映されたのを本当にビデオが擦り切れるまで見てセリフも完コピしてました笑
そして
DVDを借りてみたら声優陣が全く違く落胆したのもいい思い出です。
更新が始まったということは介護事業の方も順調なのでしょうか?
またいっぱい面白い記事が読めることを期待しています!